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UEKING ROOM

取材記録1996

「プラスマイナスギャラリー」個展にて上映された記録ビデオの企画書より

さまざまな作品の数だけ、異なる制作過程があります。現代美術の作品の中には、作家の手による制作がほとんどないといったものもあります。植木孝二の作品は一見、古典的スタイルの彫刻作品ですが、現代的で自由な感覚によって創造されます。木彫を思わせる作品は、FRP(繊維強化プラスチック)を使い、人工の漆を幾重にも塗っては磨き上げるユニークな手法で制作されます。すべてが作家の手による長い制作期間…「だからこそ、作品が完成したときの嬉しさはひとしおであり、とても言葉で伝えきれるものではない。」と植木は語ります。 制作風景を手順を追って紹介し、さまざまな制作過程における、作家の表情、そして発言を通して作品の持つ魅力と同様に作家、植木孝二の魅力もお伝えしたいと思います。過去の作品が所狭しと並ぶ、美術準備室。大小さまざまな作品が埃にまみれて静かに眠っている。今までに制作された半数近くの作品がせまい空間に一同に会している。一つ一つの作品の表情をつぶさに眺めていくと、作風の変化が見てとれる。まさにここは作家の歴史が詰まった空間であり、その制作活動の証でもある。植木氏の制作は、奥さんや娘さんをモデルにしたデッサンから始まる。そのデッサンを基に粘土で作品のかたちをつくり始め、支持体となる針金に粘土で肉付けをする。いつ終わるともしれない、かたちをつくり出す過程が延々と続く。粘土を適当な大きさにちぎり、肉付けを繰り返す。次第に作品のかたちが見え始める。細かい粘土でつくられた作品は、表面はごてごてしているがその完成像は、おぼろげに想像できる。

Q、制作活動について…「ニューヨークに遊学してパステル画を描きまくってみたり、彫刻以外にも、油絵、版画、何でもやっていた様な気がします。今、制作している様々な胸像や全身像は、これらの制作の上にあるというか、ひとつひとつの制作の積み重ねによって今に至っていると思います。」ある評論家は「現在の彫刻作品は、平面の影響を強く受けている」と植木氏に語ったそうです。氏が影響を受けた作家は、エゴン・シーレ。氏の作品のサインには、「KOJI  EGON UEKI」と記されています。モデリングの仕上げにとりかかる植木氏。母子像のフォルムは、ほぼ完成にちかづき細部の制作に集中する。母子像の顔の表情を作り始める。母の顔、娘の顔、その微妙な表情が作家の手によって作品に伝わる。デッサンで描かれた母子像が作家の手によってまもなく、かたちづくられる。

Q、モデリングについて…「作品の基本とも言えるモデリングには、時間をかけます。どこで終わりにするかまた、いつ終わりがくるのか私にもわからないのですが、突然、それが見えるというか訪れるんです。完成の瞬間をこうしてつくり続ける事で待っているのかもしれません。」植木氏の家族像、母子像、そして女性像の彫刻作品は、一枚のデッサンから生れます。何枚もの紙に描かれたさまざまな女性の姿は、植木氏の理想とする女性像でもありまた、彼自身の家族(奥さんと娘さん)をモチーフにしたものが少なくない。モデリングが終わると石膏で作品の型を取ります。粘土でつくられた母子像に石膏を塗り始める植木氏。次第に作品の表情は、石膏に塗りつぶされ始める。石膏の強度を増すために、補強材となる麻紐を石膏の中に埋め込みながら粘土の母子像を覆っていきます。「学生時代、石膏取りだけはうまいと言われた」と植木氏。石膏に覆われた作品を前に汗まみれの作家がひとり佇んでいる。夏の日差しが差し込む部屋。石膏の乾きを待つ作家。粘土に差し込んだアルミの板を丁寧に抜き始める。石膏に裂け目が入り2つに分かれる。石膏の型は、粘土でつくられた作品の原型を見事に写し取っている。粘土でつくられた作品の原型は、至るところが崩れ、もはや基の姿をとどめていない。

Q、モチーフについて…「作品のモチーフは、日々生活をともにしている妻と娘にかわりつつあります。私がまだ若かった頃と比べ肩の力が抜けた現在、日常のありふれた風景の何気ない一瞬をとらえた作品が多くなっています。それは、私が探していた作品のモチーフが実は一番身近なところにあったのだと気がついたからなのかもしれません。」石膏で型を取り終わるとFRP(繊維強化プラスチック)を流し込み、再び型を取ります。この工程によって粘土でつくった作品の表情が再びよみがえる事になります。「ここからの工程は、職人的な世界」と植木氏は語る。木彫を思わせる作品が、実はFRP(繊維強化プラスチック)でつくられるという驚き。そのユニークな手法を紹介します。樹脂の乾きを待って石膏の型から作品をはずします。大胆に石膏をはがし始める、作家。それは、剥がすというより表面の石膏を削り取っていく感じです。細かく砕けた石膏の跡に、樹脂でできた作品が現れる。長い工程を経て、粘土でモデリングされた表情が再び樹脂にかたちを変えて現れる。作品の持つ独特の色彩は、人工漆を納戸も塗っては、磨きだすといった工程によって生れます。豊かな色彩の数だけ制作の工程が増えます。黒い漆そして、さまざまな色漆が作品の表情をより豊かにしています。色漆によってつくり出される、作品の表情は漆という素材の持つ性質上長い時間がかかります。制作期間の半分がこの工程を占める事もあります。色を足しては、乾くのを待ちそして表面が平らに成るまで磨きだす、色の数だけこの工程を繰り返します。

Q、制作について…「漆を塗り込んでは磨きだし、磨きだしては塗り込むという工程を、作品にもよるが、1~2カ月位続けます。作家によっては、モデリングが終わったら職人まかせという人もいるが、それに比べて私の場合は、そのあとがまた、ひと仕事ということになる。だからこそ、作品が完成した時の嬉しさはひとしおであり、とても言葉で表現しきれません。」最後の磨きだしが終わり作品が完成する。長い過程を経て今ここにひとつの作品が誕生。完成した作品を丹念に確認する作家。しかし、次なる制作が待っている。終わることのない制作活動の一場面。休む事なく次なる制作が始まる…